前回は、フェルマーの最終定理の紹介と、
どこをどうやって証明するか、
それに使う無限降下法というものを解説した。
前回の記事はこちら↓
フェルマーの最終定理を一部証明してみよう-あらすじ編- | Shino’s Mind Archive
今回はいったん別のお話になるので、
いきなりこちらをご覧いただいている方も安心して欲しい。
今回は、とある式変形を行う。
何かというと、三平方の定理に関するものだ。
補題として提示し、
それを証明するところまでやってしまおう。
念のため、補題とは証明に使う補助的な定理だ。
それ自体も証明が必要だが、
証明できれば別の証明の中で使うことができる。
補題:三平方の定理の式変換
先に書いておくが、この補題名は私が適当につけただけのものだ。
以下の補題を証明していく。
互いに素な自然数x, y, zについて、
三平方の定理の関係が成り立っているとする。
x^2 + y^2 = z^2
このとき、二つの互いに素な数p, qを用いて、
以下のように表すことができる。
\begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} x = p^2 – q^2 \\ y = 2pq \\ z = p^2 + q^2 \end{array} \right. \end{equation}
なんだこの形って感じだと思うが、
大丈夫、これから証明していく。
が、その前に一つ言葉を説明しておこう。
互いに素という用語が出てきている。
これは、最大公約数が1であることを表している。
つまり、x, y, zの最大公約数は1だし、
p, qの最大公約数も1である。
証明
では、早速証明を始めよう。
x, yの奇偶について
まずは、x, yの奇偶を調べよう。
ともに偶数か?
まずはこのパターン。
x, yともに偶数かどうかを調べよう。
両方とも偶数と仮定して、x = 2a、y = 2bと置く。
で、三平方の式に代入してみよう。
(2a)^2 + (2b)^2 = z^2
4a^2 + 4b^2 = z^2
4(a^2 + b^2) = z^2
さて、これで左辺が偶数だと分かった。
つまり、z^2も偶数だ。
ということは、元のzも偶数となる。
というわけで、x, y, z全て偶数…2の倍数となった。
ところが、前提を見てみると、
これらは互いに素だと言っている。
つまり矛盾、x, yが両方とも偶数という線は無くなった。
ともに奇数か?
次にこちらを見てみよう。
いったん両方奇数として、
x = 2a – 1、y = 2b – 1と置いておく。
そうしたら、上と同じように
三平方の定理へ代入してゴリゴリ変換していこう。
(2a – 1)^2 + (2b – 1)^2 = z^2
4a^2 – 4a + 1 + 4b^2 – 4b + 1 = z^2
4(a^2 – a + b^2 – b) + 2 = z^2
先ほどと同じように、
左辺が偶数なのでz^2も偶数、元のzも偶数だ。
ここで、z = 2cと置いてさらに計算してみよう。
4(a^2 – a + b^2 – b) + 2 = (2c)^2
4(a^2 – a + b^2 – b) + 2 = 4c^2
2(a^2 – a + b^2 – b) + 1 = 2c^2
左辺が奇数、右辺が偶数、明らかにおかしい。
というわけで矛盾が発生してしまったので、
この線も無くなった。
つまり、xとyは奇数、偶数の組み合わせだと分かった。
なお、片方を奇数、もう片方を偶数と決めてしまっても、
反対の場合は文字を入れ替えれば同じ議論で進められる。
そのため、ここではxを奇数、yを偶数と
固定してしまおう。
ちなみに、zの奇偶は?
結論から言ってしまうと、奇数だ。
まず、x = 2a – 1、y = 2bと置いて、また計算する。
(2a – 1)^2 + (2b)^2 = z^2
4(a^2 – a + b^2) + 1 = z^2
ちょっと省略したが、こうなった。
左辺は奇数なので、z^2は奇数、
元のzも奇数ということになる。
式を変形していこう
では、元の式をちょっといじろう。
xを移項し、因数分解する。
x^2 + y^2 = z^2
y^2 = z^2 – x^2
y^2 = (z + x)(z – x) \tag{1}
このとき、z + xとz – xはともに偶数である。
x, zが両方とも奇数だからだ。
つまり、別の文字J, Kを使って、
以下のように書き直せる。
\begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} z + x = 2J \\ z – x = 2K \end{array} \tag{2} \right. \end{equation}
JとKの関係
では、ここでJとKが互いに素であることを示す。
これも背理法で攻めよう。
まず、JとKには2以上の最大公約数が存在すると仮定し、
それをgと置く。
これを使って、JとKを以下のように書き換えておく。
\begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} J = gj \\ K = gk \end{array} \right. \end{equation}
これを、(2)式に代入する。
\begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} z + x = 2gj \\ z – x = 2gk \end{array} \tag{3} \right. \end{equation}
この二つの式を使って、少し変形する。
まず、zを表す形へ、(3)式のそれぞれの辺を足そう。
2z = 2gj + 2gk = 2g(j + k)
z = g(j + k)
これで、zがgの倍数だと分かった。
次に、xを表す形へ、(3)式の上から下を引く。
2x = 2gj – 2gk = 2g(j – k)
x = g(j – k)
xもgの倍数のようだ。
では、これらを(1)式の一個前…
y^2 = z^2 – x^2に代入しよう。
y^2 = (g(j + k))^2 – (g(j – k))^2
y^2 = g^2(j + k)^2 – g^2(j – k)^2
y^2 = g^2((j + k)^2 – (j – k)^2)
ここで止める。
さて、右辺はg^2の倍数なので、
左辺のy^2もg^2の倍数。
つまり、元のyはgの倍数となる。
よって、x, y, z全て、gの倍数となる。
…何か、おかしいことにお気づきだろうか。
実は、そもそもの前提で、
x, y, zは互いに素だと言っていた。
矛盾だ。
というわけで、JとKが互いに素であることが示せた。
式変形続き
では、ちょっと戻って式変形を続けよう。
(1)式…y^2 = (z + x)(z – x)に、
(2)式…JとKを使ったものを代入しておく。
y^2 = 2J \times 2K
y^2 = 4JK \tag{4}
ここで、JとKは互いに素なので、
両方とも平方数となる。
ここもちょっと補足しておこう。
まず、平方数を素因数分解すると、
各素因数の指数は必ず偶数となっている。
右辺について、4は2^2なので、素因数2の指数は偶数だ。
つまり、JKの各素因数も指数は必ず偶数になる。
さらに、JとKは互いに素…これを言い換えると、
共通の素因数を持たないということになる。
ということは、y^2の各素因数は、
丸ごとJ、Kのいずれかに含まれることになる。
例えば、y^2の素因数に3^2が入っていたら、
これはJ、Kいずれかに含まれ、
もう片方には素因数3自体が存在しない。
そうすると、J、Kの各素因数の指数も、
必ず偶数となるのだ。
よって、J、Kはともに平方数となる。
話を戻そう。
今、JとKがともに平方数だと分かったので、
更に別の文字で置き換えよう。
J = p^2、K = q^2と置き換える。
このとき、pとqは互いに素である。
これを(4)式…y^2 = 4JKに代入すると…
y^2 = 4p^2q^2
y = 2pq
となる。
なお、平方根を見る場合は本来マイナスも見るのだが、
最初の前提でyは自然数と置いているので、
プラスしか見ていない。
これで、yを表すことができた。
あとはx、zなのだが、
(2)式のJ, Kにp^2, q^2を代入して
軽く変形すれば得られる。
ちょっと離れているので、(2)式を再掲しておこう。
\begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} z + x = 2J \\ z – x = 2K \end{array} \tag{2} \right. \end{equation}
まずはzから。
2z = 2(J + K) = 2(p^2 + q^2)
z = p^2 + q^2
次にx。
2x = 2(J – K) = 2(p^2 – q^2)
x = p^2 – q^2
やっと出た。
まとめると、以下の式が得られた。
\begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} x = p^2 – q^2 \\ y = 2pq \\ z = p^2 + q^2 \end{array} \right. \end{equation}
これで証明完了だ。
かなり長かった、お疲れ様だ。
おわりに
さて、ここまで長々と証明を書いてきたが、
これを使って次回FLT(4n)を証明する。
実は今回が一番長く、
次回は今回ほど長くはならないはずだ。
というわけで、次回完結編、お楽しみに。
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